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茜との特訓、ありすと美波とカフェでお茶、美波と奏とゲームセンターへ…。文香にとって、アイドルの生活は未体験がいっぱい。様々な経験をした文香がステージで思い浮かべたのは、周囲の人々への感謝と新しい生活の中で目にした碧い空。自らの変化を感じる文香だった。

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河川敷

Fumika

……その……鷺沢文香です。
今日は、お手柔らかに、お願いします。

Akane

文香ちゃん ! ! こんにちは !
頑張って、体力を付けましょうねーっ !
地獄の特訓あらため、茜の特訓へようこそ !

Fumika

あ……はい。

Akane

元気が足りなーい ! まずは挨拶から、こんにちはー !

Fumika

……こんにちは。

Akane

お腹に力を入れて~、こんにちはー !

Fumika

こ、こんにちは……っ。

Akane

うむ ! 頑張りましたね !
さて、それじゃあ夕陽に向かってダッシュです ! !

Fumika

……えぇ……いきなりなのですね。
今回の特訓についての諸連絡などは、ないのでしょうか。
しかも今は正午過ぎです。

Akane

細かいことは気にしない ! 気にしない !
かつて最強のスターは言いました ! 考えるな、感じろと !

Fumika

……なるほど。
反知性主義のようなものでしょうか。

Akane

はて……ハンチ……?
よく、わからないですね?

Fumika

……?

Akane

……?

Akane

とりあえず、走りましょう~ ! さぁ、いきますよ~ !

Fumika

……はぁ、はぁ。
も、もう……走れないのですが、茜さん……?

Akane

うんっ、頑張りましたねっ !
たしかに文香ちゃんは体力がありませんが、
トレーニングは日々の積み重ねです !

Akane

毎日目標を意識して少しずつ進めるのが大事ですよ !
ローマは一日で着く、でしたっけ? そういうものです !

Fumika

……ローマは一日にして成らず、ですか。
たとえるなら古書を読み解くときのような……
遅々とした進みでも、よいのですね。

Akane

よく分かりませんが、そうです ! !

Fumika

は、はぁ。
ですが私はもう、立っていられないようです……。

Akane

じゃあ、休憩にしましょうか !
全力で休んでください ! さあ、ストレッチです ! !

休憩所

Minami

文香さん、お疲れさま。
茜ちゃんの特訓、大変だったみたいね。

Fumika

……美波さん、お気づかいありがとうございます。
これほど過酷なレッスンとは、想像だにしませんでした。

Minami

今日はトレーニングやレッスン、もう終わり?

Fumika

……そう、ですね。
LIVEまでの体力作りは、計画的に行うように
プロデューサーさんから言われています。

Arisu

じゃあ……。

Minami

みんなで、カフェにでも行かない?

Fumika

……お誘い、ありがとうございます。
お2人がそう言ってくださるのでしたら、ぜひ……。

Fumika

……カフェなどは、あまり利用しないですから、
みなさんに倣うことにします。
郷に入っては郷に従え、という教えもありますから。

Minami

……文香さん、落ち着かない?
社内のカフェなら、まだいいかと思ったんだけど。

Fumika

……いえ、いいのです。私はどこにいても落ち着かない人間です。
人の目を避けるように生きてきた、本の虫ですから。

Minami

そう……ふだん、大学ではどんな感じで過ごしているの?

Arisu

気になりますね。
……あ、もちろん、将来、進学の参考にするためです。

Fumika

……どんな感じ、といいましても。
講義を受けて、教授と話す、たわいもない日常です。

Minami

まぁ、そうだよね……。
ほら、ゼミとか、サークルとかは?
アルバイト……は、もうアイドルだから辞めたんだっけ。

Arisu

学生の本分は学業です。
浮ついて貴重な時間を無駄にする人は、
学費と人生を無駄にしています。

Arisu

その点、文香さんは、違いますからね !

Fumika

……一般的には、アイドルである時点で
十分浮ついているように思われるようです。

Arisu

えっ、え……。そうですか。

Minami

だからこそ、私たちはちゃんとしないとね。
そうね……じゃあ文香さん、悩みなんかはある?

Fumika

……悩みですか。

Fumika

……。
…………。
………………。

Arisu

ないんですか?

Fumika

……知識はあれど、経験したことがない物事が多いように思います。
悩みというほどではないかもしれませんが……。

Fumika

……地図を見たことがあっても、
歩いたことがない土地は迷うものですよね。
漠然としていて、凡庸な悩みです。

Arisu

道を知ってるならいいんじゃないですか?
今時はGPSで位置情報が分かる時代ですよ。
タブレット端末でマップを開けばいいんです。簡単ですよ。

Minami

これは、比喩……例えなの、ありすちゃん。
本当に道に迷ってるわけじゃないのよ。

Arisu

そうなんですか?
うーん……よくわかりません。

Minami

ふふっ。文香さん、もっといろんなことをしてみたら?
たとえば……スポーツをやってみるとか。

Fumika

……スポーツ、ですか。
お恥ずかしい限りではありますが、運動神経というものが
致命的な出来なのです、私は。ダンスのレッスンでご存知かと。

Arisu

お料理はどうですか。やってみると、楽しいですよ。

Fumika

……料理、ですか。
食に興味があまりないのです。味の違いは分かりますが、
どんなものを食べても等しく幸せなように感じますから。

Arisu

苺パフェ、おいしいですよ。

Fumika

……それは、よかったですね。
ありすちゃんが嬉しそうで、私も嬉しく思います。

Arisu

へへへ……。

Minami

ふふっ。じゃあ、ファッションに興味を持ってみるとか。どう?

Fumika

……これも、興味が、あまり。
流行り廃りを追うのは、おそらく下手なのではないかと。

Arisu

文香さんも美波さんも、スタイルが良いから
似合う服は多そうですよね。

Fumika

ありすちゃんも、大きくなったら……。

Arisu

べ、べつに私は、いいんですけど……。

Fumika

そう、ですか。

Arisu

けど……私は、将来2人みたいに知的な美人になりたいです。
名前なんかで可愛いもの扱いされない、
自立した大人の女性になりたいです。

Fumika

……知的ですか、私。

Minami

そうみたいね。ふふっ。

Fumika

……ありすちゃん。時というのは等しく流れるものです。
私が12歳だったころにできなかった経験を、あなたはしています。
それに、私は憧れさえ抱きます。

Arisu

へ……?

Fumika

純粋な、飾らない言葉で思ったことを言えるのも、一つの長所です。
その素直さは、日陰で本を読むだけの私には
備わりませんでしたから。

Arisu

そう、ですか?
そうかなぁ……。

Minami

さて……もう、遅くなっちゃったね。
ありすちゃんも、そろそろ帰らなきゃかな?

Arisu

こ、子ども扱いしなくたって……
門限なんて、親も気にしていませんし、べつに……。

Fumika

……またお話ししましょう。
駅まで、送っていきますから。

Arisu

はい……。

Fumika

……なんだか、恐ろしさすら感じます。
自分が、どれだけ凝り固まった価値観で物事を見ているのかと。

Minami

そうだね。
ありすちゃんみたいに素直に生きたいよね。

数分後

Kanade

あら、文香に美波じゃない。お疲れさま。
どうしたの、こんなところで立ち話?

Fumika

……奏さん。お疲れさまです。
ありすちゃんを駅まで送っていったところでした。

Kanade

そう。なるほどね。
2人でデートでもしてるのかと思った。

Minami

で、デートだなんて !

Fumika

……未知の領域、ですね。

Kanade

ふふっ。面白い反応ね。
べつに、アイドル同士が仲良くしたって誰もとがめないでしょ。
パートナーなら尚更だけど……ふふ、ごめんなさい、冗談が過ぎたわ。

Fumika

……奏さんは、想像の及ばぬところからの言葉を投げてきますね。
なぜ、そのように自由に生きていられるのですか。

Kanade

……自由? ふふっ。
したいことをしたいから、かしら。

Kanade

命短し恋せよ乙女、でもアイドルが恋できないのなら?
命短し楽しめアイドル、って感じ?

Fumika

……楽しむ、とは。

Minami

そうね……どこか、遊びに行ってみる?
奏さんなら、いいところも知ってそうだし。
普段しないことをして、見識を広げましょ♪

Kanade

これでも高校生なんだけど……
そんな変なところ、連れていかないわよ。

Fumika

……お手柔らかに、お願いします。

ゲームセンター

Fumika

……こんなところに、足を踏み入れたことはありませんでした。
たとえるなら魔窟、あるいは未踏の地……。

Kanade

初体験、ね♪

Minami

文香さん、どれかやってみる?

Kanade

レースゲーム、リズムゲーム、クレーンゲーム……
太鼓を叩くものなんかもあるわよ♪

Fumika

……どれも、私を試すように置かれている気がしてきました。

Fumika

……いきなり全ては、無謀だったかもしれませんね。
もう、腕が上がりません。

Kanade

ふふ。はしゃぎすぎ。楽しかった?

Fumika

……遊びというのは、古来、何らかの学習工程を
模した行動といいます。
キャッチボールは投石による狩りを模したものであるように。

Kanade

まぁ、一理あるけれど……
それで、数時間のゲームセンターで文香は何を学んだのかしら?

Fumika

……ゲームの社会的意義と、資本主義を。

Minami

クレーンゲーム……
だいぶ頑張ってたけど、取れなかったもんね……。

Kanade

それはまぁ、高尚だこと……。

LIVE当日

Akane

文香ちゃん ! !
今日のLIVEステージ、全力で燃えていきましょう !
応援しています ! !

Arisu

文香さん。
今日は落ち着いて、緊張しても冷静に対処してください。
応援していますから。

Fumika

……あの、ありがとうございます。
どちらも貴重な意見として、参考にさせていただきます。

Minami

ふふっ。気負わず、自然体で行きましょう。

Kanade

やることをやるだけよ。きっと。

Fumika

はい。では……いってきます。

LIVE後

Minami

お疲れさま。文香さん、すてきなステージだったよ !

Fumika

……お疲れさまでした。ほめていただけて、嬉しいです。

Kanade

ずいぶんといい表情をしてたけど、
どんなことを考えながら歌っていたの?

Fumika

……舞台に上げてくださった多くのスタッフ、プロデューサーさん、
そして、支えてくれるみなさん。
それと……碧い、空を。

Fumika

特訓を終えて……草原で横になり、ストレッチをしていました。
そこで見た、抜けるほど碧い空……。

Fumika

会場で輝くサインライトの色は、あのとき見た空の色です。
輝く碧、Bright Blue……。

Fumika

……そんなことを考えながら、歌っていました。

Minami

うん。きれいな景色だったね。
その想いも、ファンのみんなには伝わってるよ。

Arisu

……あの。お待たせしました。
プロデューサーさんが車を用意してくれたそうです。
茜さんは、既に向かいました。

Minami

じゃあ、帰りましょうか。ね。

Arisu

……ところで、以前、みなさんで
どこかへ行ったと聞いたんですけど。

Kanade

あぁ、ゲームセンター?

Fumika

……そうなのです。話の流れで、そのようなことに。

Arisu

そうですか。私は家でゲームをしていましたから、いいんですけど。

Kanade

今度のオフをあわせていったらいいじゃない。

Fumika

……そう、それまでの代わりというわけではないのですが、
これを、どうぞ。苺柄のストラップです。

Arisu

これは……?
私に、ですか?

Minami

あっ。クレーンゲームで見つけてチャレンジしたけど、
取れなかったものだよね?

Fumika

……その、話すと長くなるのですが、えぇと。

Kanade

みんなで行った日には取れなかったんだけど、
その後、取れるまで毎日付き合わされたの。
手に入れるまで何回プレイしたことか。頑固なのよね、意外と。

Arisu

そんな、いいんですか?

Fumika

……えぇ。手に入れることに価値があったので、
手に入れたものは、喜んでもらえる人の手にあるのがよいかと。

Kanade

クレーンゲームに、今月の書籍代が消えちゃったわね。

Minami

そんなに……それって、実は結構な額じゃ?

Fumika

……いいのです。
書との出会いは人生を変える、という名言があります。

Fumika

私にとっては、プロデューサーさんやファンの方々、そして、
みなさんとの出会いが、人生を変えるものだから
……大切にしたいと、思っているのです。

Fumika

それで、みなさんのうち、これが最も似合うのは
ありすちゃんですから……
もらってあげてください。ね。

Arisu

はいっ !

Minami

ふふ、じゃあ、あらためて帰りましょうか !
プロデューサーさんも茜ちゃんも待ってると思うし !

Kanade

文香、茜にもちゃんとお礼してあげてね。
カレーを奢ってあげるくらいでいいと思うけど。

Fumika

カレー、ですか……?
私、カレー屋さんに入ったことが、ないもので……。

Arisu
Minami
Kanade

えぇ~っ ! ?
えぇ~っ ! ?
えぇ~っ ! ?